オーストリアのザルツブルグはチロル地方のはずれにあり夏は乾燥してとてもしのぎやすいが、天気が変わりやすく、朝は快晴、夕は雨ということもしばしばだった。日本だと北海道ぐらいらしく、八月末は町中がコート姿になってしまった。 十一世紀に築かれたホーエン・ザルツブルグ城を象徴とするこの町は、全体が昔のままの形で残され、人々はゆったりしたテンポで生活している。しかし、毎年のザルツブルグ音楽祭(七月下旬ー八月末)の期間には、音楽祭目あてに世界中からファンが集まり、日ごろ十五万の人口が百万にふくれあげる。 五つの会場で連日行われる演奏会は正装の客で満員になり、中心会場であるフェスト・シュピーレル・ハウス前の道路にはドレス・アップのご婦人方の衣装を見るために人がきができる始末だった。町のショーウィンドーには今年の出演者のパネルがいたるところに掲げられ、町全体が音楽一色となり、ヨーロッパの夏の音楽祭の中心地としての華やかさと活気にあふれる。なにしろ、この音楽祭だけで一年分の収入をあげてしまうというから驚きで、このおような町はほかのはあるまい。約五週間のシーズンを終えると、人ひとり見あたらないような町になるのに。 (昭和54年10月15日金曜日、西日本新聞[夕刊])(1/3)
by keizo-ohata
| 2006-08-05 21:24
| クラシック音楽
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