珍しく夢を見て、目が醒めた。斎藤秀雄先生が夢に現れたのだ。お亡くなりになる5ヶ月程前の頃、日曜日の指揮教室で桐朋にいらっしゃる時は、指揮科の学生が先生の車を運転して、自宅までお迎えにあがっていた。我々は先生のキャスター付きの(回転)椅子を駐車場に運び出して到着をまっていました。先生が到着すると、助手席の先生をかかえるようにして椅子に座らせると、両方から抱えて椅子を運びました。
階段を上がる時は椅子が少し揺れて、先生は「エヘヘ、楽チン楽ちん」とおっしゃる。《怖い》先生で有名で、生徒達は恐れをなして話しかけるのも憚るような斎藤先生でしたが、素顔の先生はかなりの「ちゃめっ気」のある方でした。 その先生に浅井ゲルマニュウムを差し上げたことがあります。癌だと言う噂が密やかに生徒の間に流れ始めた頃、私は4階の斎藤先生の部屋をノックして中に入りました。長椅子に横になっていた先生は「何だ?」といった様子で顔を上げられた。「これ、ゲルマニュウムと言うんですけど、身体にイイんです。副作用のようなものは全く心配ありませんから、お飲みになってください」とゲルマニュウムの粉末の分包を手渡しました。(そのゲルマニュウムは浅井一彦先生宅でのホームコンサートの度に頂いていたものでした。) 斎藤先生は手に持ったゲルマニュウムの分包にチョット目をやった後に、こうおっしゃいました「皆がねェ、僕のことを心配して色々持ってきてくれるんだ。でもね・・・(これは君たちの「気持」なのだから、その気持を)・・僕は飲む!」。「でもね・・・」に続く一瞬の間では、ゲルマニュウムを持つ指に力が入ったような気がいたします。キッパリとした口調で「僕は飲む!」とおっしゃいました。その光景が夢に現れ、目が醒めました。 沈黙の一瞬の斎藤先生の心の内が感じられて、なぜか涙がこみ上げてきました。やはり、人間は『心』なんだなぁ・・・と、つくづく思います。
by keizo-ohata
| 2006-10-17 10:33
| 平成徒然草
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